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このエントリーを含むはてなブックマーク 2007.06.28    ビリーズブートキャンプ物語4日目

オレは、荷作りをしていた。

今日、除隊しようと思っていた。



3日目の訓練が終わった後、オレはその場に座り込んで動けなかったが、

周りの隊員は、そんなオレをよそにハグをして、ジョークまで交わしている。

それを見た瞬間、オレはこれ以上の訓練に参加できないと確信した。

こんなショボい隊員がいたら、隊の士気を下げてしまう。

ビリーはもとより、周りのみんなに迷惑をかけてしまうのは目に見えていた。

邪魔になる前に、隊を去ろう。



ブートキャンプを、除隊するには何の手続きもいらない。

ビリーは来る者は拒まず、去る者は追わない主義だ。

最初に、料金を納めれば、一週間と言わずいつまで隊にいてもいい。

そして、辞めたければ、ただここを去ればいいのだ。



オレは、訓練の1時間ほど前に、荷造りを終わらせ部屋を出る。

そして、訓練前のみんなが更衣室に集まる時間を見計らって出口へ向かった。

それでも、誰かに見つからないように様子を伺いながら進む。



仕事で帰らなければならなくなった。いや、体調がすこぶるよくないから。



見つかった時の言い訳を考えながら進む。

後ろで人の気配がした。オレは、小走りで柱の角を曲がる。

ふー、これで大丈夫だ。

壁にもたれ、一息つく。そして、ふと前を見ると、



そこにはシェリーがいた。



一番会いたくない人物。



オレは、シェリーを凝視したまま動けなかった。

シェリーは、オレを一目見たあと、

こちらへ向かって来たかと思うと、俺の前を通り過ぎた。

オレは、身を強張らせていたが、何もされなかったのに安堵した。

その時、



「さよなら」



シェリーが呟いた。

今までこちらが挨拶をしても、無視してきたシェリーが、

オレに初めて言葉をかけた。



オレは、自分の心を全て見透かされた気がした。そして、



「家に帰って、せいぜいママに慰めてもらいなさい」



シェリーが付け加える。



最後まで皮肉か。。。



「お前に何がわかる!!」



オレは思わずシェリーに喰ってかかった。

シェリーは全く意に介さず、



「わかりたくないわ。負け犬の気持ちなんて・・・」



「お、オレは、オレはみんなの邪魔になる前に、!」



「ええ、そうね!!あなたみたいに他人に責任をなすり付けて

 自分に言い訳を重ねるような人間はブートキャンプに必要ないわ!

 今すぐ、ここから消えなさい!!」



シェリーの迫力に圧倒され、オレは言葉を失った。



シェリーは、出口を指差した手をおろすと、再び歩き出した。

オレは、シェリーの足音が小さくなってもその場から動けなかった。



「自分に言い訳・・・」



隊の士気を下げる。隊のみんなに迷惑をかける。



どちらも、ただ自分が訓練から逃げ出したいがために、

責任をみんなになすり付けているだけ。

全てシェリーの言うとおりだ。



オレは人生を変えるためにここに来た。

ビリーは、「諦めるな!」「お前ならできる!」そう言ってくれた。

でも、オレはダメだった。人生を変えるなんてできなかった。



ビリーが、除隊しようとする隊員を止めない理由がわかった気がした。

逃げ出す理由を周りのせいにする奴の人生なんて既に終わってる。



オレはビリーに人生を変えて貰おうとして、自分の器の小ささに気付かされた。



ヨロヨロと出口へ向かって歩き出す。



数m歩いたところで、立ち止まり、体ごと壁にもたれると声を出さずに泣いた。



惨めだった。



どれくらいそうしていただろうか、壁に接している背中がしびれてきた。

オレは手で壁を支え上体を起こした。

壁にはビリーのポスターが貼ってあった。

白い歯を見せこちらに笑顔を向けている。



この顔で何度励まされたか。



ビリーが掛けてくれた数々の言葉を思い出した。



・・・・・・・。



オレの目から、また涙が流れてきた。

しかし、今度はその涙をすぐにぬぐうと、一息吐き、走り出した。



『―――人生は誰でも変えることができる―――』



オレはそのままの勢いで扉を開けた。



「すいません。遅れました!!」



部屋の中には既にアップテンポな曲が流れていた。

ちょうどビリーが帽子を投げようとしていたのか、

帽子を手に持ったまま、こちらを振り向いた。

そして、オレの顔を見ると、



「ブートキャンプで遅刻が何を意味するのかわかっているのか!!」



激怒の表情でこちらを睨むと



「今日は昨日より厳しくいくぞ!」



そう言った後、ビリーはニヤリと笑顔を見せた。



みんなも笑顔で迎えてくれた。

しかし、シェリーだけはこちらを振り向きもしなかった。



今日も応用プログラム。

やはりキツい。何度もついていけなくなった。

しかし、オレは休むことはあっても、諦めることはしなかった。



長かった55分が終わった。



ビリーは最後に定番の説教をした。

内容は昨日と全く同じだろう。




今この場所にいるのは君がそう願ったから

明日どこにいるかは、君がどう願うかだ

変わりたいという気持ちさえあれば、

いつだって人は変わることができる






昨日は、疲労でこの言葉は耳に入ってこなかった。

しかし、今日この言葉を聞いたら、



勝手に涙が溢れてきた。



つづく

この記事は、 12 オモロ


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